人生の道連れ1

副鼻腔炎と診断されたのはいつだったか、かれこれ10年以上も前の話。鼻づまりが一過性のものでなく慢性化するも、これまで手術を勧められたことは一度もなく、薬を飲んでは止め、飲んでは止めを繰り返していた。ところが今年久しぶりにクリニックを訪れるとドクターが世代交代しており、医療器具も一新。CTを撮ってみましょうということになった。その結果「これは薬では治りません、手術を考えましょう」と。

私は、蓄膿症のおぞましい手術のうわさを知るギリギリの世代かもしれない。上唇だか歯肉だかをペロリ〜ンと剥がして、ノミか何かで鼻の骨を削るなどという、そんなとんでもホラー体験、どこから勇気を振り絞れというのか。恐れおののき固まっている私に若いドクターは、「今はもうそんなことしませんよ〜」と微笑んだ。全身麻酔をかけて、内視鏡で施術するらしい。

知らないうちに手術は終わっている。その「なんてことない」感が、私の背中をひと押し。さらに初耳であった「鼻茸(ハナタケ)」というワードが、ドンッ!強力に背中をもうワンプッシュ。
鼻茸とは、鼻腔内にできるポリープの呼び名なのだが、文字から連想されるビジュアル・イメージがあまりにキツすぎる。
「鼻茸がけっこうできています」って、わたし、栽培した覚えないです先生!お鼻の中がキノコ畑???気持ち悪るすぎでしょ。もう、今すぐにでもキノコ狩りをしたい。根こそぎとってほしい!という刹那な思いに駆られた。 そして最後のひと押しは、長年気になっていた発声への影響を改善できるかもしれないという期待。つねひごろヴォーカルは声を共鳴腔へ響かせてナンボ。などと生徒たちに偉そうにレクチャーしておきながら、自分は寝不足などちょっとした体調不良でも鼻が詰まり、鼻腔にうまく共鳴させられないといったジレンマがあった。

これら三要素と、先生から聞いた慢性副鼻腔炎を放置しておいた場合のリスク云々を考慮した上で、手術することに踏み切ったのが夏前。とはいえ即答したわけではなく、2週間ほどネットでくまなく情報収集し、悩みに悩んだ末の決断である。

紹介してもらった大病院のT先生とも何度かじっくり話をさせてもらい、およそ2ヶ月ほど、じっくり覚悟を寝かせ熟成させた上で臨むはずだった手術。であるが、 途中で例の階段真っ逆さま転げ落ち事件が勃発。弱り目に祟り目のダブル厄だ。厄のやつめ、畳み掛けてくるよな・・・。よーし、だったらこの際まとめて背負って一気にエイヤッ。背負い投げだぜ、ベイビー。丹田に力を込め、上半身がっちりコルセット装着のまま手術台に上がった。

つづく