入ってましたって!

〜私は、七七八五一号の百円紙幣です。あなたの財布の中の百円紙幣をちょっと調べてみて下さいまし。あるいは私はその中に、はいっているかも知れません〜

これは先月「魔女ラジライブラリー」にて朗読させてもらった太宰治の名著「貨幣」の冒頭部分だ。「私」のモノローグで綴られるこの物語は、主人公の百円紙幣が様々な人の手に渡り旅をする過程において、戦時下の日本という時代背景と、そこに生きた者たちの本心があぶりだされていく様がとても興味深い。
今宵死ぬかもしれぬという時にむき出しになる人間の醜さ、浅ましさ。と同時に顕になる人の優しさ、他人を思いやる心というものも存在する。それらを貨幣に世渡りさせ、見聞させ、語らせるというアイディアが、まずもってブラボー文豪太宰!なのだが、ラスト、そうきますかっ!!凄いを超えて、憎い。
いい話です、本当に。だから声に出して読みたいと思った。
「ああ、欲望よ去れ、虚栄よ去れ。日本はこの二つのために敗れたのだ。」という「私」の独白も、未だ胸に突き刺さったまんまなの。痛い。
この時期に読み返すとまた沁み入るわね。まだ読んだことないという方はぜひ、青空文庫で一読を。もしくは魔女ラジライブラリーにてJovandyの朗読でお楽しみくださ〜い。

って今日は本の話じゃなくて、いや、大いに関係あるのだけど、
太宰さんのおっしゃる通り、入ってたのですよ!父の古い財布に!!

百円紙幣!!!
板垣退助さ〜ん!!

父が私にこの貨幣を委ねるというのです。なんという巡り合わせ。百円紙幣の「私」が私の元へ。ロマンだわ。で、幾らで転売できるの?って浅ましい考えが浮かばなかったといえば嘘ね。ここは正直に。調べてみるとだいたい2~3倍の値ってところかしら。二、三百円。しかし私は今のところ手放す気はない。もうしばらくロマンに浸っていたい。この百円紙幣が活動していた時代に思いを馳せてみたい。
それにしても、この子はまだ若いわね、綺麗だもの。箱入り娘?大事にしすぎて旅するチャンスを奪ってしまったかな。もう、どこへも行けないのだとしたら、悲しいね。だからこうやって多くの人に見てもらいましょう。

今やキャッシュレスの時代、貨幣が人の間を巡り、時代を旅する機会は今後ますます減っていくのだろう。
今日コンビニで手放した貨幣たちには、この先どんな冒険が待っているのかな。貨幣を擬人化してロマンを託せるのも今のうちかもしれない。