病棟日記 その9

アンユージュアルな体験
入院9日目 

特注の補装具が今日届くというので、退院が明日にのびた。連日の猛暑、暑そうだな~外。明日は上半身をほぼ覆う頑丈な補装具をつけての退院。気合いがいりそうだ。

相変わらず詰所のオープンスペースでは、先生と患者さんご家族とのヘビーな話が進行している。壊死、腫瘍、転移、延命措置など、小説やドラマの世界でしか聞いたことのないようなワードが途切れ途切れに浮上し、改めてここは命を扱う場所なんだという認識を深める。

アイラブTVさんから授かった「感謝の言葉は惜しみなく」の精神は今日も引き続き実践。清掃員のおじ様へ「いつも綺麗にしていただいて、ありがとうございます!」と伝えたら、言ったそばから自分の心も綺麗になっていった。それから、これまでだと自分の中だけに留め置いていたようなこと、わざわざ相手に伝えるという発想すら浮かんでこなかったようなことも口にしていた。例えば今回はゴミ箱の話。先日ゴミを捨てようとしてベッド脇のゴミ箱を覗くと、底に何やら捨てた記憶のない塊があって、その上に透明のビニール袋が敷いてある。何だろう?とビニール袋をとってみると、その塊は新しいビニール袋ワンセットであった。なるほど!これだと毎回新しいビニール袋を用意して持ち込む必要がなくなる。取り替えがスムーズになるよね。という気づきをくれた事に対する感謝の気持ち「このアイディアいただきます!家でもやります!ありがとうございます!」を伝えたわけだ。この時、おじさまは初めて白い歯をみせて下さった。気持ちにはちゃんと気持ちが反応してくれるんだなぁと思った。

朝食後、ここへ来て2回目にして最後の整形外科の診察を受ける。私はずっと脳神経外科の病棟にいたので、主治医も脳神経外科のドクター。整形の先生とのコンタクトはほぼ皆無。その点だけがとても不安であった。ほぼ初対面な感じでスタートした会話は以下のとおり。もうね、全然噛み合ってないよね。明日退院なんだけど・・・。

「先生、わたし、いつから通勤出来ますか?」
「あ、働いてるの??」
   え?逆に聞きたい。その意外性の根拠。

「先生、この間リハビリで
   エアロバイク乗ったんですが…」
「へー、そんな事したんだ~。」
   え? (パードンミー?)
   リリーちゃんと連携とってないんすか?
   先生の指示とかって、ナイ感じすか?
   そういうのはアリなんすか?
   大丈夫なんすか?
   階段とかも~上り下りしちゃったっすよ!
   え?え?え?
   誰を信じたらいいんすかーーー⁉️

誰も信じられないという思いと、全てを信じたいという思いが交錯し、行き着いた先は、結果オーライであった。レントゲンでは骨の状態に変化なし。運ばれてきた日と同じ状態。つまり、悪化はしていないのだから、結果的にはオーライだ。
そうだろう?ベイビー。

そして、入院生活最後のリハビリへ。
リリーちゃんがしっかり横についてくれてるから大丈夫。もう信じることに決めたから大丈夫。エアロバイク?やるやる。
「では、今日も10分間、頑張りましょう!」「は~い!」
ところで知ってました?リリーちゃんのリハビリメニューは、ただ単にバイクを漕ぐだけではないのです。その間ずっとリリーちゃんと会話をするという負荷がもれなくついてワンセットなの。

私:「はぁ、はぁ、はぁ」
リ:「で、例のおばあちゃん家なんですけどね~」
私:「はあ、はぁ、はぁ、あー、愛媛のね。
   結婚したら譲り受けるって言ってた
   はぁ、はぁ、はぁ」
リ:「生前贈与ってことになるんですかね~?」
私:「はぁ、はぁ、はぁ えーっとね~、
   孫の場合は・・・はぁ、はぁ、はぁ」
リ:「年間でいうと・・・」
私:「はぁ、はぁ、はぁ」  
り:「・・・・ですかね~?」 

  あかん、りりーちゃん、
  脳に酸素が足りてない気がする。
  ええんかな、信じてるけど、ええんかな、
  このままいって。。。

リリーちゃんは、最後まで
無邪気にスパルタであった。

さて、9日間に渡り綴ってきた病棟日記もこれにて終了。連日たわいも無い独り言にお付き合い下さったみなさま、ありがとうございました。

今回もし体にメスが入っていたら、ここまでの余裕は多分なかったと思います。痛みは病院に運ばれてきた日がピークでした。受けた傷からすると奇跡的生還に自らの生命力の強さを感じると共に、何か別の力、他力によって命拾いした、生かされた、という感覚も強く、それが今回の入院生活におけるいくつかの「気づき」へとつながっていったようにも思われます。
「気づき」をまとめると、こんな感じ。

気づき1:感謝の気持ちは惜しみなく伝える
気づき2:看護する側、される側双方にとって、
     言葉は最も重要なパイプである
気づき3 : 年老いて誰かの世話になるってことは
すごく覚悟のいることである 

最後にこれは問題提起。
これからの時代、各入院病棟には認知症を患う患者さん専門の看護師さん、もしくは介護士さんの配備が必要ではないか。きっとそれができない理由は山ほどあるのだろうけど、病院が姥捨山ではあまりに悲しい。丸腰の本人も、またその家族も、人質にとられるような思いなく、安心と信頼のもとで預けられる環境を整えてもらいたいです。その事を、一個人の願い、理想としてここに記しておく。

ではでは、今後もこのブログ「言の葉ノート」をよろしくです!その他、5日ごとに変化する七十二候をご紹介する「季節の便り」や、階段落っこちてなければ先月中にアップ予定だった「きょうの言霊」も、なるべく早く立ち上げたいと思っていますので、ぜひまた立ち寄ってくださいね。このサイトIkukologyが、今後も皆さまの止まり木になることを願って。  

川島郁子