We propose healing and learning to make your life a little more colorful
黄鴬見睨
山里ではウグイスが鳴き始める頃
その年の一番初めに聞くウグイスの声を「初音(はつね)」といい、春を告げる声として昔から心待ちにされてきました。以前は気象庁が発表する「ウグイスの初音日」が春到来を測る目安にもなっていたのですが、2020年から生物季節観測が大幅に縮小されてしまったので、残念ながらウグイスの初音情報もわかりません。自分たちで耳をすませて確認するしかないですね。

ウグイスの初音はまだ本調子ではありません。「ホー、ホケッ、ケッ・・・ケキョ」。この準備段階の歌声を「ぐぜり鳴き」と呼ぶそうです。はっきりしない、ぐずぐずした鳴き声。そんなたどたどしさがまた微笑ましくもあるのですが、春先に低地でデビューする頃はまだ声量もなく、歌もへたくそ。天下のウグイスとて、最初から完璧な者はいないのですね。さあ、ここからボイストレーニングの開始。体内のホルモンレベルが徐々にアップしていき、発情が高まるにつれ、よく通る美声に仕上がっていくのだそうです。多い日は1日数千回も鳴くそうで、ヴォーカリストとしては爪の垢を煎じて飲みたいほどの習練ぶり。ウグイスのオスの持ち歌はだいたい3曲くらいあって、警戒の時や縄張り争いの時など、シチュエーションによって使い分けているようです。愛を囁く時は小さな声で、母性本能をくすぐるような甘い鳴き声に。美声プラス独自の節回し、より複雑でクリアな歌を捧げるオスがモテるそうです。求愛はもちろん、争いごとも歌で平和的解決だなんて!お手本になることの多い小鳥です。

いまは勝手に野鳥を飼うことはできませんが、昔の人はウグイスを家で飼って、江戸時代には「鳴き合わせ会」という、さえずりのコンクールなども行われていたようです。審査基準は、「ホーホケキョ」の、とくに後半の「ホケキョ」部分の出来映えが重要視されたとか。ちなみにあの美しい歌声は、親鳥など身近な大人の鳴き声をまねて習得するようです。よって昔はヒナに仕込むために、声のよいウグイスを貸し出して稼ぐ人もいたそうですよ。ウグイス界もTTP(徹底的にパクる)が習得への近道なのですね。驚いたことに、一年生の若いウグイスだけでなく、前年にさえずっていた成鳥もまた春になると「ぐぜり鳴き」から始めるとか。また一からです。 つくづく、ウグイスは学習の鳥なのだなぁ。

初心に帰ることの大切さを教えてくれる季節。丁寧に日々鍛錬を積み重ねていく様子を見守りながら、完成された美声を耳にする日を今年も楽しみに待ちましょう。
Ikukology
TOPへ