We propose healing and learning to make your life a little more colorful
楓蔦黄
楓(かえで)や蔦(つた)の葉が色づいてくる頃
いよいよ紅葉シーズンの到来。赤や黄の彩りが、ゆっくりゆっくり日本列島を鮮やかに染め上げていきます。紅葉前線のルートは春の桜前線とは逆で、北国から徐々に南下していきます。北から南へ、山から里へ。やがて平地の身近なところでも錦秋を楽しめるようになるでしょう。

「錦秋(きんしゅう)」の「錦(にしき)」とは、数々の色糸を用いて華麗な模様を織りなした織物のこと。立派になることを「錦を飾る」なんていいますが、つまり、日本の秋はそれほどまでに美しく立派な秋ということなのですね。事実、日本の紅葉の美しさは世界有数といわれています。もともと他国と比べ、モミジやカエデの種類が豊富なうえ、鮮やかに色づくための条件を満たす気候風土のおかげで、紅葉の色の豊富さ、グラデーションの繊細さにおいては群を抜いているとのこと。世界が憧れる秋の風景を毎年のように満喫できる私たちは、なんて幸せ者なのでしょう。あの有名人も日本の錦秋に感動したうちの一人かもしれません。ドイツ人医師のシーボルト。江戸時代に来日した彼は、日本から多くの植物を持ち帰っていますが、その中のひとつカエデは、その後ヨーロッパで大ブームを巻き起こし、以降さまざまな品種を増やしていったそうです。

ところで、秋の山が紅葉によって色づく様を「山粧う(やまよそおう)」といいますが、これまた上手い表現ですね。山々もよそゆきに着替えてお洒落の季節。ちなみに「山笑う」「山滴る」「山粧う」「山眠る」の4つは、日本の四季を表す季語のセットとなっています。これらは中国の画家、郭熙(かくき)が書いた詩、「春は山が笑うが如く、夏は滴るが如く、秋は粧うが如く、冬は眠るが如く描くのがよい」からきています。つまり、画家が山を描くときの心得が、山河に囲まれた日本の四季をとても端的に言い表しているということで、日本ではすっかり便利な季語として定着したようです。いつか山を描くときには、本来の意である絵の極意を唱えながら筆をとりたいものです。

我が国自慢の錦秋は、散った後の風景も人々の心を捉えて離しません。色とりどりの葉が水面に落ちて波打つ様子を「錦の波(にしきのなみ)」と呼ぶそうです。有終の美とはまさにこのこと。今年の秋も最後の最後まで思い存分楽しみましょう。
Ikukology
TOPへ